Pathological love
「フフッ………眠りたいからここに来てるんだよ。ここで程よく飲むとよく眠れる筈なんだ………。」
「そうですか………分かりました。」
一瞬、女と見紛う程の柔らかな微笑を残して、綾野さんはまたカウンターの奥に戻って行った。
「少し飲みすぎなんじゃありませんか?」
マティーニのグラスがコトっと隣に置かれ、オーナーと入れ代わりで隣に来たのは、あの人だった。
「…………黒木さん。」
「お久し振りです………秋山さん。お隣、宜しいですか?」
「………はい。」
相変わらず、パリッとした上質のスーツを綺麗に着こなして黒木さんは隣に座った。
「随分、眠れていない様ですね?」
「仕事が忙しくて………。」
「強情な人ですね………本当はそれだけじゃないでしょう?」
人の心を見透かすような、少し茶色掛かった瞳が俺を見つめる。
「ハハッ………あなたは不思議な人ですね?どうして、そんなに人の心を読むんですか?」
「職業柄、観察力はある方なので。お気を悪くさせて申し訳ありません。」
「今日、あなたに会えた事は、俺による必然ですね。もう、あなたに会う事は無いと思っていたのに、俺は心の何処かで、あなたに会いたいと思っていたのかも知れません。」
「それならば、私だって同じですよ?あなたが来るのを待っていました。中々来てくれないから、今日はお店に足を運んでしまいました。」
小さく笑いながら、黒木さんはマティーニを一口飲んだ。