Pathological love
仕事上、名刺をよく目にするが、ここまでこだわっている人は滅多にいない。
「お医者様なんですか?」
「ええ。」
「あっ、すいません!私、今名刺持っていなくて!」
「構いません。次お会いした時に。」
「次………ですか?」
素敵な笑顔と意味深な言葉を残して、その男性は帰って行った。
綾野さんも入り口まで見送りに、後をついて行った様だ。
(また会うか分からないのに………不思議な人。)
一息ついて、カウンターに向かうと、当の本人は気持ち良さそうに眠っている。
「連理…起きて?連理ってば!」
「うぅ~ん………無理~。」
「無理じゃ無いから!ここでは寝れないの!ほら立って!!」
連理を正面から抱き起こして、椅子から立たせる。
「おっも!!」
ヒールを履いていないから余計大きく見える。
(………無理かも知れない。)
「連理!ちゃんと自分の足で立って!!私一人じゃ無理だから!!」
「………令子?………本当に令子?」
「他の女の名前呼ばなかった事は褒めてあげる。さぁ、家へ帰ろう。」
片方の肩を貸そうと身体を離した瞬間、私は大きな彼の腕に強く抱き締められた。
「連理?!ちょっと!!」
「この令子も夢なら、それでもいい………。やっと俺の所に戻って来たから………。頼むから、俺を独りにしないで………。」
少し涙声の様な彼の声に、ぎゅうっと胸が苦しくなった。
この人はずっと、深い不安を抱えて生きてきたんだ。
こんなに大きな身体をしているくせに、心は母親に拒絶された子供の時から何も変わっていない。