Pathological love
「もちろん引き受けるよな?お前、プレゼン勝ち取って仕事受けるの好きだもんな?」
ワクワクした子供の様な目で、俺の言葉を待っている仲井は何だか学生時代を思い出した。
こんなに興奮してるって事は、かなりの大仕事なのだろう。
「あぁ。その方が、色眼鏡無しで俺の作品を周りが見てくれるからな。」
「だろ?!!何でも、お前の作品を見たその会社の上層部の一人が、かなり気に入ったみたいで、ほぼ他のデザイン事務所に決まっていた所を無理矢理押し込んで、プレゼンに持ち込んだそうだ。」
「何だよそれ。余計やりづらいし………。」
何となく嫌な予感が過った。
誰かの後ろ楯があると、心強い半面、後で問題になるケースも多々ある。
何よりも、俺のデザインの自由も奪われそうで面倒だ。
お偉いさんは、自分でオファーしたくせに、気に入らないと無理矢理自分の意見を押し付けてくる傾向がある。
そんな状態じゃ、納得出来る作品は造り出せない。
不格好な作品を世に出すくらいなら断った方がましだ。
「でも、プレゼンで選ばれれば、それはお前の実力じゃないか!どっちにしろ同じだろ?」
「デザインに関しては全面的にこっちに任せて、口出さないならやってもいいけど………。」
「それは俺が上手く交渉する!!任せてくれ!!」
「………で、何処の企業なんだよ?」
「驚くなよ?それは、天下のー…」
もし、この時この仕事を断っていれば、あの日彼女をあんなに哀しませる事は無かったのかも知れない。
何も知らない俺は、そうとも知らずに一歩を踏み出していた。