Pathological love
「そうか?どうせ、一緒にいたっていつか離れるなら、最初から一緒にいなきゃいい………。」
「いつか離れるとしても、独りじゃ無かった時間は、その後また誰かと出会うまでの糧にはなるわ。それに、お互い離れたくないと思えば、ずっと永く一緒にいられると私は思いたい。」
「まるで、夢見る少女だな。」
水槽の方に視線を戻して、遠くを見つめる彼は物憂げで寂しそうだった。
きっと彼を好きになる女性は、彼の時折見せるこの寂しそうな瞳に引き寄せられるのかも知れない。
「人は子供から大人になって、また子供へと戻るものよ?何も可笑しくなんてない。」
「そうか………子供なら夢見ても可笑しくないか………。」
「連理………あなたもたまには子供に戻ってみたら?」
「戻ってどうする?見たい夢も無いのに。」
「子供に戻った時は、我が儘聞いてあげてもいいよ?」
私の言葉に漸く彼は、身体と視線を私に向けた。
静まり返った館内は、まるで二人だけの様な錯覚に陥る。
彼の一重の大きな瞳が私を見据える。
ドクンッ………
それと同時に私の心臓も目を覚ます。
「何でも聞いてくれるのか?」
声のトーンが何時もより低く、私の身体に響く。
「うん。」
彼は水槽の前の段差に軽く腰掛けながら私を誘い、近くに寄ると連理は見上げるように私を見つめた。
まるで捨てられて、少しやさぐれた黒猫みたいで可愛い。
「近くに来たよ………どうしたらいい?」
彼は何も言わず、私の腰に腕を回して顔を埋めた。
私も答える様にそっと腕を頭に回した。
ゆっくりと頭を撫でると、いつもリラックス出来る彼の部屋の香りがした。
「連理の身体………温かいね。」
私の問いに連理は何も答えなかったけど、暫くの間、私達はそのまま時を過ごした。
今日の思い出を私は絶対に忘れない。
初めて彼が私に弱味を見せた特別な日だから………。