Pathological love
卵形の輪郭に、少し意志の強そうな眉、瞳は大きく猫の様だ。
鼻筋も通っていて、口は下唇がぽてっとしていて柔らかそうだ。
いや、柔らかい事は知っている。
俺達は曖昧な距離感をどうにもできずに留まっている。
後数センチのこの唇に、俺の心はいつも揺れ動くけれど、捕まえてしまえば、俺は今までの様に、この女(ひと)も不必要な存在として分類してしまうのではないだろうかと怖くなる。
彼女は母親とは違う……何度もそう思い、何度も挫ける。
情けない俺の心は、今日も袋小路に入ったまま抜け出せないでいた。
「はい!出来た!!見てみて!」
鏡を渡されて覗くと、信じられないくらい肌か滑らかで見違える様だった。
「おお、こんなに変わるんだな……すげーな。」
“再生”
突然俺の中でその文字が浮かび上がった。
「………何か、分かったかも。確かここの棚に………」
今のイメージを失わないうちに確かなものを掴みたくて、俺は夢中で資料棚を探し始めた。
どのくらい探していただろうか、気がつくと令子は書き置きを残して帰っていた。
「………あぁ~…何やってんだ。礼も言わず、帰してしまった。」
その後も暫く探したがお目当ての本は見つからなかった。
ここに無いなら、後はあの場所しかない。
心は逸るが、身体は躊躇する。
腕時計を確認すると、7時を過ぎたところだった。
「この時間なら誰も居ないはずだ。」
俺は車のキーを持って直ぐ様事務所を出てると、暫く足が遠退いていた実家へと向かった。