Pathological love

黒木先生の言っている事が、自分の中でよく噛み砕く事が出来ずに私はただ見つめ返した。


「いいですか、水川さん。私は真実しか言いません。私の言葉をよく聞いて、しっかり理解してくださいよ?」


「はっはい!」


黒木先生はテーブルの上に身体を乗り出すと、催眠術師の様に人差し指を立てて、私の瞳をじっと見つめた。

いつもと違う雰囲気に緊張が走る。


「まず最初に…………あなたの母親はあなたの母であって、あなた自身ではありません。ですから、あなたも同じに離婚するわけじゃありません。次に、恋愛や結婚に間違いなんて一つもありません。末永く幸せに暮らそうが、離婚して一人になろうが幸福は人それぞれです。あなたが選んで、あなたが愛しいと思った人と一緒にいる………それでいいんです。人の人生に正解なんて無いんですから。」


「先生…私………、もしかしたら母に洗脳されていたのかも知れませんね。」


「水川さんのお母さんは、本当にあなたの事が大切なんでしょう。お母さんはお母さんなりに、あなたが何者からも傷付かない様に守ろうとしているんです。愛しければ愛しいほどあなたを縛ってしまう。愛情とは本当に難しいものです。」


「本当にそうでしょうか………。ただ自分の失敗を男社会で私が成功する事で帳消しにしようとしてる様にしか思えません。私をいい大学に入れる為に、母は働き詰めでした。だから私はどんな理不尽な母の要求も、自分を殺して全て応えてきたんです。」


黒木先生は黙って私の言葉に相槌を打つ。


「本当は母に軽蔑されているんじゃないかって怖いんです。父の浮気相手と同じ様に私も不倫をしてしまった女だから………今回の私の決断も、きっと母を酷く傷つけてしまいそうでずっとはっきり言えなくて………。」



< 210 / 299 >

この作品をシェア

pagetop