Pathological love
「患者さん………では無いですよね?」
「すいません。朝早くから勝手にうろうろして。早く到着してしまったので周りを散策してたんです。長く母がお世話になっているのに、温室があるのを知らなかったので。私は水川八重子(みずかわ やえこ)の娘の令子と申します。いつも母がお世話になっております。」
きちっとした挨拶の仕方はそれだけで、仕事も遣り手なのだろうと思わせた。
「あっあぁ!!知ってます!!今日、久し振りに面会に来られたんですよね?」
慌てて喋って自分の失言に気づく。
ガン患者の家族にも細心の注意を払わなくてはならないのに、“久し振りに”なんて余計な事を言ってしまった。
この間も似たようなクレームが患者家族から寄せられて、同僚が厳重注意を受けていた。
「すっすいません!!そんなつもりじゃなくて、慌ててしまって………本当にすいません!!」
「フフッ………平気です。その通りですから。」
「えっ?」
穏やかな返しに私は思わず顔を上げた。
第一印象は、キリッとした目元が冷たい感じに思えたけれど、喋り方の物腰はとても穏やかに聞こえた。
「母親が末期のガンなのに、滅多に会いに来ない親不孝な娘ですから………。」
「………会いに来ないんじゃなくて、それは八重子さんが………」
「母の言い付けも守れない駄目な子供だから、母は私に会いたがらないんです……きっと………。」
「そんな事………」
令子さんが寂しそうに笑うから、何を言っても気休めにしかならなそうで、私は言葉に詰まってしまった。