Pathological love
VIPルームに入るなり女は俺の首に腕を回し、頭を傾かせるとキスをして来た。
久し振りに感じるこの偽物の温もり。
「今日さぁ~すっごい嫌な事があってさぁ~。」
半分膝に股がるようにして女は抱きつき話始める。
「彼氏の事なんだけどぉ~…ずっと付き合ってて結婚しようねって約束してたのにぃ~、昨日いきなり別れるって言われたのぉ!!あんなに私の事好きだって、愛してるって言ってたのに、あっさり別れるって何なの一体って感じでー……超ムカつく………。」
似た様な他人の身の上話なんて、面倒臭くて聞きたくもない俺は、女を力任せにソファーに押し倒しす。
急におとなしくなった女の顔を見ると、腕で顔を隠したまま微かに震えていた。
「…………………そんなに好きだった?」
「………こんなに………悲しくて、…苦しい思い………するなら、好きにならなきゃよかった。………一緒にいなきゃよかった………もう、やだ………もう………いい。」
子供の様に泣きじゃくる女は、思い出したくない俺の心の傷を鮮明に思い出させる。
「…………………確かに…そうだった。ぬるま湯に浸かりすぎて、俺もすっかり忘れてたよ………。」
顔を隠したまま咽び泣く姿は、昔の自分そのものだった。
何を忘れてたのだろう。
また人に心を寄せて、棄てられるくらいなら最初から一緒にいなければいい。
(何やってんだ…俺は………もう、誰にも心を許さない………そう決めたじゃないか。)
「今日は君に出会えてよかった………忘れていた大事な事を思い出せたよ。」
俺はソファーから降りて、宥めるように彼女の頭を撫でた。