Pathological love
「先生、私の方は単純な方なのでその心配は要らないようです。でも、後者の方は本当に可哀想ですね。自分で自分の首を絞める形になるのですから。」
「…………はい。一番いいのは、その好意を寄せている相手が全力でぶつかって、受け止めてあげる事なんですが、そこまでタフな方は中々いないのが現実です。」
「そうですね。誰しも自分が一番可愛いですからね。」
「人間ですからそれが当たり前なのかも知れません。」
一瞬の沈黙が明けると、綾野はマティーニのおかわりを持って来てから、空のグラスを下げていった。
賑わってきた店内を何気無く見渡す。
あちらこちらのテーブルでは男と女がそれぞれのムードを醸し出して楽しんでいた。
さっき出会ったであろう男女はいつの間にか男が腰に手を回して密着している。
女も嫌がらず満更でもない様子。
女は私の視線に気づいたのか男がよそ見をしているうちに、標的をこちらに変えてしまった様だ。
腰の男の手を振り払ってこちらに向かって来る。
「人間だからこそ、動物とは違う理性のある行動を期待したいのが私の本音ですけどね…………。」
独り言ちると一気に診療モードに切り替えた。
「こんばんは…お一人なんですか?」
強烈な香水の匂いを漂わせて、胸元を露にした女が話し掛けて来た。
「ええ………。あなたと少しお話がしたくなりました。こちらにどうですか?」
診察をする様に椅子に促すと、いつものように相手の瞳を見据えた。
「あなたはどうやら後者の方ですね………フフッ…困りました。」
「えっ?」
女は不思議そうな顔で暫くこちらを見つめていた。