Pathological love
16. It’s over.
「昇進おめでとうございます!!令子さん!!」
「美保ちゃん、令子さんじゃなくて、水川課長だろ?」
「そうでした!すいません。水川課長!!」
紙コップのコーヒーを溢さない様に遠慮がちにぶつけ合うと、生意気な後輩の藤森と美保ちゃんが茶化しながらお祝いの言葉を私に浴びせた。
今月の辞令で私は営業一課の課長にめでたく昇進したのだ。
形振り構わず偽装婚約までして突っ走って、漸く手に入れた役職だ。
給料もぐんとアップするし、これならば母親に認めて貰えるだろう。
私は何か肩の荷が下りた気分だった。
(これでやっと好きな事が出来る。)
「何か水川課長テンション低くないですか?」
二人が訝しげに私の顔を見ていた。
「嬉しいけど、ホッとしたのが一番かな。」
「そんなもんか?………んじゃ今夜、お祝いで飲みに行こう!!」
「いいですねー!!」
「ごめん!!明日にしてくれない?今日は…………」
二人は顔を見合わせるとにんまりと笑い、私に視線を移した。
「すいません、水川課長!!こんな特別な日は、秋山さんと過ごしたいですよね?」
「気がつかなくてごめんな?俺達は明日でいいから今日は旦那に祝って貰えよ!」
「まだ、旦那じゃないしっ!」
「時間の問題だろ?」
「まっまぁ、そうだけど………」
藤森に言われたからじゃない、私はこの昇進を期に本当の意味で連理に婚約を申し込もうと思っていた。
寂しがり屋の彼を傍で見守る為に、一番近くにいられる場所。
今の私には何よりもそれが優先すべき大事だった。