Pathological love
移動中、私はすっかり眠っていた様で目を覚ますと、黒木結婚相談事務所のソファーに横たわっていた。
お酒しか喉を通してなかった私は、喉がカラカラに乾いていた。
「………んん……水………。」
「はい、どうぞ。」
コトンと置かれた水色のガラスのコップは、レモンと氷が浮いていて、如何にも美味しそうだ。
私は上半身を起こすと、それを一気に飲み干した。
「大丈夫ですか?」
「…………はい。ご迷惑をお掛けしました。」
そう答えた瞬間だった。
私の瞳からは微かに音を立てて、ポタポタと雫が落ちてきた。
「はは……何これ………私、格好悪いですね。呑んだくれて介抱されて、挙げ句に泣いたりなんかして………。」
「水川さん?」
黒木先生の包み込むような優しい声が、余計に私の涙を誘うと、また大粒の涙が手の甲に落ちて弾けた。
「先生………私…彼と婚約を………解消してしまいました…………悔しいけど…私じゃダメでした………。」
自分で自分を落としておいて、涙は止めどなく流れる。
「どんなに足掻いても………私は彼の役には立てない………。」
ティッシュボックスを丸ごと私に持たせると、黒木先生は私の涙やそれに付随するものをそっと拭ってくれた。
「あなたはバカです。今まで一体、彼の何処を見て来たのですか?」
「…………えっ?」
「彼の本当に欲しいものが分からないのですか?」
「欲しい………もの?」
「秋山さんは本当に欲しいものは欲しいと言いません。いや、言えなくなってしまったんです。でも、寂しさゆえに誰彼構わず傍に居て欲しいと思ってしまう。その一番簡単な理由付けに、相手に役に立つ肩書きを選んだ。水川さん…そんな秋山さんを変えたくて頑張っていたんじゃないんですか?」