Pathological love

モヤモヤと心の中を渦巻いていたモノが晴れていく。


「先生………私…すっかり忘れていました。私の望みは彼の恋人になる事じゃありませんでした。」


「それじゃあ、あなたの望みは何ですか?」


「彼の…幸せです。」


急な別れを告げられて、私はすっかり我を忘れていた。

彼がいつも私を助けてくれた様に、私も彼を助けるとずっと約束していたのに、今こそその時だと言うのに何をしているのだろう。

どうして彼の助けを求めるサインに、近くに居ながら気づかなかったのか。


「あなたへの気持ちを断ち切る為に、あなたを傷付ける言葉や態度も沢山受ける事でしょう。彼への気持ちがそれ程ではないなら、このタイミングで離れるのも構いません。私は無理強いはしないし、別の道を進んだとしても責めたりなんかしません。無駄に傷付く必要もない。」


黒木先生は真剣な眼差しで、私を真っ直ぐ見つめた。

一瞬の沈黙の中、私の鼓動だけがやけに大きく聞こえた。

その音がまるで私を鼓舞する様に、私の背中を押した気がした。


「先生…私…もう一度仕切り直します!何度断られても手を替え品を替えて食らいつくのが営業一課のクィーンですから!」


「フフッ………やっぱり出来る女は違いますね?」


「少しバカにしてます?」


「いいえ、最大限の誉め言葉です。」


「ただ必死なだけです。」


「必死?いいじゃないですか。死ぬ覚悟で挑むと言う事ですから、これ以上のものは無いかと。」


「はい。」


私は酔いが完全に冷めるまで黒木先生と話し続けた。

他愛もない内容だったけれど、黒木先生は楽しそうに聞いてくれて、私の心は次第に癒されていった。

少しだけ締め付ける彼への恋心だけが、心の片隅に残ったままだったけれど、私はその気持ちを大切にしまう事にした。

この気持ちだけが、今の私の原動力になっているのは間違いないのだから。





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