Pathological love
私は何で此処に来てしまったのだろう。
薄暗い部屋の入り口に佇んだまま足が出なくなってしまっていた。
今、連理はどうしているだろうと、明かりの点かない隣のベランダをただ眺める毎日から解放されたかった。
山川くんの話では元となる広告デザインがまだ決まらず、その所為で全てが遅れているとか。
私は放って置く事が出来なかった。
薄暗い部屋を小さなPCの明かりを目指して進んでみると何度も足先に紙屑や資料の束が当たった。
「何の用ですか?」
暗闇の中から他人行儀で冷たい声が響いた。
「………久し振り、全然家に帰ってこないから心配で。」
「フッ………どうして水川さんが心配する必要があるんですか?もう、偽の婚約者でも無いのに。」
胸に冷たい針が刺さったようにツキンと痛み出したけれど、私は無理矢理笑顔を作った。
(大丈夫…まだ、頑張れる………。)
「確かにそうだけど、偽でも元婚約者として協力した仲じゃない。そう邪険にしなくたっていいでしょ?」
「………………。」
彼の眉間に少し皺が寄ったのを確認して、私は更に一歩彼に近づいた。
「凄いクマ………ずっと寝てないんでしょ?温かいスープを作ってきたから一緒に食べよ?」
無言の彼の腕を取って、半ば強引にソファーに座らせると、スープジャーを持たせた。
「自分で作ったのか?」
「何疑ってんの?味見もしたから大丈夫だよ!私も食べよ。お腹空いてたんだよね~…いただきま~す!」
私はわざと明るく大きな声を出して食べ始めた。