Pathological love
「ああ、それは電話じゃないんです。令子ちゃんが一方的に留守電にメッセージを残しているんです。お母さんは電話に出ないから……。」
「えっ?でも、毎日楽しそうに話してたのに……」
「大分前から娘と会うことを拒否していたから、令子ちゃんは声だけでもって留守番電話に毎日メッセージを残す様になっていたの。会うことはしなかったけれど、お母さんはちゃんと聞いていたわ。それがやっとこの前会えたのに……。」
外邑さんはそう言って顔を曇らせた。
「そうだったんですか………でも、どうして会わなかったんですか?」
「それは本人しか分からない事だけど、私が思うにお母さんは娘の重荷になりたくなかったんだと思う。いつも言っていたもの、“私が生きているうちに、早く昇進してくれないかしら”って、一人で育ててきたからきっとそう思うのね。」
俺は令子の事、何にも知らなかった事に気づかされた。
普通の家庭に育って、なに不自由なく生きて来たと勝手に思って……彼女の本当を知ろうともしていなかった。
いつでも自分の事で精一杯で、自分が一番不幸だとそう思う事で、自分に言い訳をしていたのかも知れない。
「あっ!令子ちゃんからメールが来たわ!……すいません、お邪魔しました!」
「いえ、……よかったです。」
「あの……赤の他人の私が言うことじゃ無いかも知れませんが、令子ちゃんとは長い付き合いだから、これだけ言わせてください。令子ちゃんの事、宜しくお願いします。令子ちゃんは無理する所が多いから……。でも、あなたの事凄くいい人で信頼しているからって嬉しそうに話してたので、きっと大丈夫ですね。」
「…………。」
呆然とソファに座ったまま、目の前の女性が頭を下げて去っていく姿を見送った。
何にも言葉を返せなかった。
「俺は何てバカで、臆病なんだ………。」