Pathological love
閉店していたAlternativeから場所を移して、一度来た切りになっていたあの事務所へ俺は来ていた。
この前と同じハーブティーを、今度は黒木さんが自ら運んできた。
「白金くんより味は劣ると思いますけど、リラックス出来ますから…飲んでみてください。」
「………はい。」
ほんのり甘いリンゴの香りが、俺の気分を少し落ち着かせてくれた。
「水川さんと婚約を解消したそうですね?」
「……何故それを?」
「理由聞いてもいいでしょうか?」
「………………。」
「実は水川さんは、私の患者さんなんです。」
「えっ?」
「あなたの為に、ここに来ていたんですよ?」
「俺の?何で……?!」
「彼女の願いは、あなたの恋人になる事じゃなく、あなたと結婚する事でもなく、ただ、あなたを幸せにしてあげる事だそうです。」
「……あんなに酷い事をしたのに……どうして…そこまで俺を……分からない。」
「婚約を解消されて、あなたに拒絶され傷つけられても、諦めず頑張って見守ると言っていました。彼女がキャリアにこだわる理由を知っていますか?」
「実は彼女の事が知りたくて、今日、昔付き合っていた男性に話を聞きに行きました。恐らく彼女の母親が関係しているんじゃないかと思ったんですけど………」
「そうです。秋山さんも幼少期に大変辛い思いをなさった事は失礼ながら、水川さんのカウンセリングの一貫で聞いております。でも、彼女もまた長い間苦しんでいるんです。あなたの様に逃げることも出来ず、自分の全てを犠牲にして……。あなたが自由で孤独な鳥だとしたら、彼女は自分で羽根を切った飛べない籠の鳥です。」