Pathological love
何日もの徹夜と缶詰め状態の生活で疲れ果てていた俺は、久しぶりに自宅へと帰っていた。
隣の部屋の窓をベランダから覗き見ると、まだ明るいのにカーテンは締め切られて、中は伺えなかった。
何度か声を掛けてみたけれど、全く返答は無く人の居る気配は無かった。
「一体どこに行ったんだよ……。」
疲れた体を湯船に着けて漸く上がった時、インターホンが訪問者を知らせた。
ドクンッと心臓が飛び跳ね、急いでモニターを確認するとそこには思いも寄らない顔があった。
「…………母さん。」
眉間に皺を寄せて、不満そうな顔で立っている。
「居るなら早く開けなさい。」
一体どうなってるんだ?
目の前には紛れもない母親が、取り巻きの部下も連れずに1人で座っている。
「……何の……用?」
「随分な言いようね。」
「…………。」
「あの子に言われて、今日は来たのよ……。」
「……あの子?」
「水川 令子……あなたの元婚約者なんでしょ?今は違うみたいだけど。」
思い出した……以前令子がそんな話していた事と、それで俺は令子に酷い仕打ちをしてしまった事を。
ジリジリと胸が痛み出す。
「彼女とてもあなたが好きなのね?それにとても強い人ね。」
「えっ?令子は……なんて?」
「今でもあなたの眼差しを求めている。………今の連理をただ見てあげてください。私も、逃げずに彼を見守る。……真っ直ぐに私から目を逸らさず、彼女は言ったわ。私はその言葉を聞いて腹立たしく思ったのと同時に、自分が酷く情けなく思ったの。」
俺から目を逸らして、母さんは1度窓の外に目を向けた。
暫くの沈黙の後、ゆっくりと口を開く。
「……………………ずっと…………ずっと…………あなたを傷つけて、寂しい思いをさせて……ごめんなさぃ…………。」