Pathological love
「令子ちゃん!日曜日、温室のメンテナンスで午後から空くからこっそり貸切にしたの。久し振りに温室のカフェでお茶しましょうよ。」
仕事から帰宅して第一声に、外邑さんがこんな事を言ってきた。
確かに外邑さんの家に世話になってから、殆ど外には出ていない。
時折、親友の友が私を心配して様子を見に来てくれていたけれど、私はろくに相手も出来ず、友の投げ掛けてくれる優しい言葉にただ耳を傾けるばかりで、今は何を聞いても五感を失った様に何も感じなかった。
好きだったはずの物も今はどうでもよかった。
ぽっかりと空いた胸の隙間は、何日経っても埋まる事は無かった。
「でも……私……」
「お母さんも好きだった温室よ?」
「母が……?」
「えぇ……とても好きだった。丁度、お母さんが好きだった花も見頃よ?優ちゃんと私と3人で……どうかしら?」
今の私を突き動かせるフレーズは母だけだ。
「それじゃあ……行きます。」
「そう、良かった!日曜が楽しみだわ!」
少しでも、母の息遣いを感じたい。
大事なモノを一度に二つ無くした私にはもう、何も残っていない。
母の痕跡を辿る事しか、今の私には出来ないのだから。
未来の事など考える余裕は無かった。