Pathological love
「男はね、なんでも“初めて!”って言葉に弱いんだよ。」
「単なる男の、くだらない征服欲でしょ?」
「はーい!じゃあ、まず肉の下ごしらえから!パックから肉を取り出して。」
(あっ………シカトしやがった。)
パックから取り出した肉はひんやり冷たくて少しぬるっとしていた。
私は当たり前の様に、水道の取っ手を上げて勢いよく水を出した。
「ちょっ…ちょっと!何するつもり?」
「えっ?何って、食材はまず洗わなきゃでしょ?」
連理は深い溜め息を吐くと、フキンを目頭に当て、わざとらしく泣き真似をした。
「こんな初歩的な事から教えないといけないなんて………お母さんは悲しい………シクシクシク………。」
「何よ…………馬鹿にして……教えなさいよ。」
「教えて貰うくせに、偉そうだな?フフッ…まぁいいわ、肉は洗ったりしないで、そのまま使うんだよ。じゃあ、肉の筋を切って塩コショウして。」
「筋?筋なんかあるの?どこに?」
「あー………そこじゃない。それに包丁の持ち方もなんか変だし………ちょっと貸して………。」
どうしたらいいのか固まっていると、後ろから抱きつくように手を取られた。
長身の彼の腕の中に、小さい私はすっぽり収まる。
「筋はここ…これを切らないと肉が縮むから、見栄えを良くする為にもちゃんと切って………。」
密着して、耳元で囁かれると、何とも思ってない相手でも
ドキッとするもので、全く言ってる事が頭に入ってこない。
「ちゃんと聞いてる?ほら、次はタレを作って………」
ジュワッと音を立てるしょうが焼きの音で、我に返るとフライパンはいい匂いを漂わせていた。