Pathological love
(しょうがない………悔しいけど、今回は敗けを認めるしかないか………。)
発信ボタンに手を掛けようとしたその瞬間、誰かの手が画面を遮って、隠した。
「待たせて悪かったな?穂純ちゃん。」
「秋山さん!!」
穂純ちゃんと呼ばれた彼女は、声の主を見ると飛ぶように駆け寄って行った。
「一人でやらせてごめんな?後は俺がやるから、サポートに回ってくれ。」
彼女の頭をポンと撫でると、さっきまで涙でグシャグシャだった顔が安心した様にニッコリ微笑んだ。
「はい!」
コンパクトなスーツケースをデスクの脇に置くと、彼は上着を脱いでこっちを向いた。
「あんまり、うちの子…苛めないでくれる?」
「苛めてないっすよ~!!」
「本当に?こんなに泣かして…君も悪い男だなぁ~?」
「勘弁してくださいよ!!水川主任も何とか言ってくださいよ~!!」
小森くんに促されて、連理の目線が私に移った。
「…格好良く登場したんだから、お昼までの入稿…間に合うんでしょうね?」
「フフンッ。俺を誰だと思ってんの?暫く集中するから、静かにしててね。あ~後、小森くんだっけ?下のカフェのコーヒー買ってきてくれない?ブラックで。」
「えっ?あっはい!行ってきます!」
ポキポキと指を鳴らして肩を回すと、連理はパソコンに向かい、一言も喋らなくなった。
ただ、カチカチとゆうマウスの音が、静かなオフィスに響いて、時間だけが過ぎていった。
入稿10分前、漸く連理はパソコンから目を離した。
「よし!…ほら、出来たよ…持ってって。」