Pathological love
近くの膝掛けを手繰り寄せると、スーツのスカートから伸びる脚に、そっと掛けた。
既に日も暮れかけて、帰らないといけない時間なのは分かっていたが、どうしても起こすことが出来ない。
一体、俺はどうしたんだ?
どうしても、さっき触った彼女の手の感触が忘れられず、気になってしまう。
女の手なんて、今まで飽きるほど触ってきて、何とも思わなかったのに。
さっきの夢の所為か?
そっと手を伸ばし、彼女の手の下に潜り込ませ、握ってみる。
「温かい………普通の手だ。」
「ん…………。」
突然の令子の声に、心臓が飛び上がった。
訳が分からないまま、俺はオフィスを飛び出して走っていた。
「何やってんだ…俺?」
会社を出て、暫らくした所で令子に電話を掛けてみる。
『…………もし、もし………』
「俺だけど、その声、まだ寝てたのか?」
『先に起きたなら起こしてよー。一人置いてくなんて酷くない?』
「えっ?………あぁ、気持ち良さそうに寝てたから、起こすの悪いと思って…ごめん……。」
『もう、家?私も今から帰るから、晩ご飯は一緒にー』
「俺、今から出掛けるから………悪いんだけど今日は何処かで食べて来て…ごめんな?」
『謝らなくていいわよ。お互いフリーなんだから……じゃあ、またね。』
「ああ………またな。」
令子の電話を切った後、直ぐ様、また電話を掛ける。
「もしもし、俺……今直ぐ会いたいんだけど………じゃあ、いつもの所で待ってる。」
何かが胸を締め付けて、息苦しい。
早く欲しい。
空っぽの俺の容器に、早く詰め込んで欲しい。
「誰でもいいから………早く。」
俺は誰でもいい誰かが来るまで、ずっとそう願っていた。