Pathological love
芦屋デザイン事務所の芦屋 京子は、海外でも幾つか賞をとった、今や引っ張り凧の有名デザイナーだ。
彼女のデザインは和を取り入れた、モダンなデザインが特徴で、大手の企業とのコラボが大成功して、日本でも名を上げている。
仕事選びには徹底していて、自分が興味を持った仕事しか請けないことで有名だった。
彼女を口説き落とすのは至難の技だと、業界では有名な話だ。
嫌な予感がする。
赤坂部長が、わざわざその話を私に振ってきた理由はたった一つだ。
「芦屋デザイン事務所との交渉、お前に頼みたいんだが………やってくれるか?」
「やっぱり………そう来ましたか。でも、いくら私でもこればっかりは勝算は無いですよ?」
「営業一課のクィーンなんだから、そんな弱腰でどうする?」
「それを言うなら、先方は女性ですし、営業一課のキングの方が勝算あるんじゃないですか?」
赤坂部長は大きな溜め息をして、ソファーの肘掛けにもたれた。
「そうなんだよ!!本当は山川を当てようと思ってたんだけど、あいつ今、立て込んでるんだよ。明日から出張だし…今は手が離せない。お前は丁度、手が空いた所じゃないか。他の男に任せるには荷が重い……だから、頼む!!」
上司に両手を合わせて拝まれては、私は為す術も無く、従うまでだ。
吐き出しそうになる溜め息をグッと堪えて、言葉を返す。
「分かりました。取り敢えず、オファーしてみます。」
「頼むぞ!クィーン!!」
そして私は、また一つ悩みの種が増えた。