Pathological love
鞄の中をチェックして、準備万端にすると、私は重い腰を上げた。
「赤坂部長。芦屋デザイン事務所、初日、行ってきます。」
「あぁ、頑張ってこい!!」
今日は、アポイントを取って、初めて芦屋デザイン事務所に伺う日。
何時もよりかは、スカート長めの地味目のグレーのスーツと真っ白いブラウスを着込んで、明らかに女性ウケを狙ってみた。
初日はとにかく、気に入られるよりも、好印象を残すのが先決。
次に繋げる為には、それが重要だ。
差し入れを、何にするかずっと迷っていたら、一昨日の夕食時に、連理がアップルパイを提案してくれた。
なんでも、最近、流行っているパイ専門店らしい。
私は、和にこだわりがあるのだから、高級和菓子がいいと思っていたから、渋々な所も実はあった。
「本当に………、これでイケる?」
妙に可愛いロゴの紙袋を持ち上げて見てみる。
「取り敢えず、買っちゃったし、これでいくしかない!」
芦屋デザイン事務所は、古民家を生かした趣のある建物で、都会の街並みの中、ぽつんと立つそれは、時代から取り残されたようで、とても目を惹いた。
私は、気を引き締めて、事務所のインターホンを押す。
ピンポーン………
「はい。どちら様でしょうか?」
「間宮印刷の水川と申します。」
「間宮印刷の方ですね?伺っております。どうぞ、お入りください。」
古めかしい門を通り抜けると、玄関先に着流しを着た背の高い、スラッとした男の人が立っていた。