Pathological love
「急いては事を仕損じると言いますし、あなたを乱す原因は突き止めました。今日は、ここまでに。次、会う時に、また続きを話しましょう。」
男は、スッと立つと出口に向かって歩いて行った。
手元のコースターを引っくり返すと、携帯番号と自分が来るであろう曜日が書かれていて、最後に名前が書いてあった。
「黒木先生もう、帰ってしまわれたんですか?」
「黒木………先生?」
オーナーが接客をしていたのか、トレーを持って立っていた。
「えぇ、黒木病院の院長先生ですよ。外科と心療内科のどちらも資格があるそうです。珍しいですよね?特別に、うちの健康診断もお願いしているんです。」
「常連さんなのに今までずっと、知らなかった………。」
「入れ違いが多かったですから。でも、一緒に店にいたことはありますよ。今までは気づかなかったのだと思いますけど。」
「そうか………。」
その後、俺は、帰るまでの間ずっと、黒木先生の言った言葉を考えていた。
“『婚約者の所為でしょうね。』”
自分が目的の為に選んだ事だ、それなのにどうして、俺の方がこんなに不安定になる?
今まで、あんな暴走したことなんてなかったのに。
ホテルでの一件が頭を過る。
彼女を遠ざけようとしてた筈なのに、いざ、いなくなりそうになると、俺は無意識に彼女の腕を掴んでいた。
どんな女にも執着した事の無かった俺が………。
「………どうして………。」