2番目じゃなくて、2度目の恋


テーブルの上に並べられたAランチのサラダとエビドリアはあっという間に彼の胃袋の中へおさまった。
相当な早食いなのか、時間にして5分経ったか経たないか。


思わず話の骨を折って、そこに突っ込んでしまった。


「食べるの早いですね」

「ん?あぁ……、職業柄ね」

「なんのお仕事をしてるんですか?」


恋人になるとかならないとか、付き合うとか付き合わないとか、そういう話以前に基本的な情報をお互いに知らない。
まずはそのへんの知識を高めてから相談すべきことなんじゃないのか、と改めて我に返ってしまった。


「引越し業者。荷物の梱包と運び出し」


彼の答えはこれまた意外だった。
どこかのオフィスでパソコンにかじりついて仕事をしているのかと思い込んでいたからだ。
作業着よりもスーツの方が似合いそうな顔をしていたから、てっきりそっちの方だとばかり思っていた。


「水戸さんはなんの仕事してるの?」

「医療事務です。クリニックの受付をしたり計算したり、会計したり……」

「あ、そう」

「引越し業者と医療事務じゃ、きっと休みも合わないですね」

「ま、そうかもね」

「それでも私と付き合いますか?」


『あの人』とだって休みは合わなかった。
それでも合間を縫って会っていた。
いや、正確には『あの人』に会いたいと言われた時に必死になって時間を作った。
それは私が『あの人』のことを愛していたから。
でもその感情は彼には無い。
たぶん、彼に会いたいと言われたところで時間を作ることなど思いつきもしないだろう。


私は何も言っていない。
心の声を顔に出したつもりもないのに、彼はそれに応じるように答えた。


「大丈夫。俺があなたに合わせるから」


不満げな表情を出してみたら、彼は笑った。
「恋人になるってそういうことでしょ」と。


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