2番目じゃなくて、2度目の恋
私の勤めるクリニックに、一本の電話が来た。
ちょうど患者さんの会計をしていた私の隣で、何コールめかの電話を吉川さんが取る。
「川部内科クリニックです。…………はい、はい、……え、水戸さんですか?ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか。…………あ、分かりました」
不意に出てきた私の名前に戸惑いながら、患者さんの対応を続ける。
チラリと吉川さんも私に目配せをして、「少々お待ち下さい」と保留ボタンを押してから受話器を置いた。
ようやく会計を終えた私に、吉川さんが小声で耳打ちしてくれた。
「瀬名さんっていう男性の方から水戸さんに電話よ。ご家族が急病だから電話をくれたみたいだけど……」
せな?
瀬名さん?
敦史の苗字と一緒。
彼の名は瀬名敦史だ。
ドクン、と胸が鳴った。
ときめきとかそういうのではなくて、不安で仕方ない予感。
なにそれ。
どういうこと?
どうして敦史が私の家族の病気を?
そりゃいつかは忘れたけど、勤めているクリニックの名前を彼に教えたような覚えはある。
いや、それよりも家族が病気って……。
父なのか、母なのか……。
頭の中が一気にパニックになった状態で、震える手で受話器をとった。
「も、もしもし……お電話代わりました」
『佑梨?』
ふっと耳馴染みのある声。
一瞬、ほんの一瞬だけど、弘人の声に聞こえた気がして。
また胸がドキッとした。
電話口にいるのは間違いなく敦史だ。
敦史と弘人は、私の名前を呼ぶ雰囲気がそっくりだということに気づいた。
そういえば弘人が初めて私の名前を呼んだとき、敦史の顔が思い浮かびそうになったんだっけ。
ぼんやりと思い返していると、敦史が先に口を開いた。
『佑梨のお母さんが、左足を骨折したんだ。事情はあとで詳しく話すから、仕事を切り上げて医療センターに来てくれないか?お父さんは山梨に出張してるっていうし、頼れるのは佑梨しかいないんだよ』