2番目じゃなくて、2度目の恋


「お母さんが、骨折……?」

『うん。医療センターに着いたら、連絡ほしい。病院でお母さんに付き添ってるから、もし来たら入口まで迎えに行く。番号は……』

「ちょ、ちょっと待って、メモするから」


彼が丁寧に告げる、彼の携帯番号。
メモを取りながら、決死の思いで彼の番号を消去した過去を思い出す。
せっかく消したのに、また私の携帯に記録されるのか……。


母が骨折したことも心配だったけど、でもまだ怪我で良かった。
それこそくも膜下とか、脳出血とか、そういう病気だったらどうしようと思ってしまったから。


電話を切っておそるおそる吉川さんを見ると、彼女はなんだか全てを悟ったような顔で私を見ていた。


「今日はそんなに混んでないし、私ひとりでどうにかするよ。お母さん心配でしょ?行ってきなよ」

「ありがとうございます」


いい先輩に恵まれたなぁ、という気持ちで彼女に頭を下げ、急いで受付を出た。


従業員用の休憩室兼更衣室の部屋に飛び込み、事務服を脱ぐと私服を急いで身に付ける。
バッグを引っつかんで、裏口から外へ向かった。


クリニックの前には道路があるけど、そんなに大きくないからタクシーも通らない。
大通りに出るために小走りで歩道を進む。


走りながら、このまま医療センターへ行ったら敦史に会うことになるんだということを考えていた。
実家に半年以上帰らずに、敦史に会わないように避け続けてきた私。
その事態は、母の思わぬ怪我によってあっさり訪れてしまったのだ。

< 101 / 133 >

この作品をシェア

pagetop