2番目じゃなくて、2度目の恋
「あ、そうだ。佑梨のお母さんなんだけどさ。マンションのエントランスの階段で転んで、それで骨折しちゃったみたいだよ?俺はたまたまそこを通りかかったんだ。詳しくは家族が来たら説明するって医者が言ってたから。お父さんへも連絡しといたよ。明日朝イチでこっちに向かうってさ」
エレベーターから降りて廊下を歩きながら、敦史は母のことを話してくれた。
偶然居合わせたにしろ、お世話になったことには変わりない。
「敦史、ありがとう」
私がお礼を言うと、彼は首を振って「気にするなよ」と笑った。
この笑顔に何度も何度も、数え切れないくらい胸がドキドキしていたはずなのに。
今の私は、そんなのを感じることは無かった。
長い廊下をキョロキョロ見回していると、ふと敦史が尋ねてきた。
「そういえばさ、佑梨。携帯いつ壊れたんだ?」
「………………え?」
「だっていつの間にか番号変わったろ?しかも急に引っ越したって聞いてビックリしたよ。ひとり暮らし?…………あ、もしかして男と住んでるのか?」
一瞬、なんと答えればいいか迷った。
敦史の顔を見ると、彼は特に深い意味を持って聞いてきた訳では無いということが分かる。
ということは、私が意を決して彼の前から姿を消したということに、気づいてなかったということだ。
それはつまり、あの日を境に彼も私と連絡を取るつもりが無かったということと等しい。
当たり前だ。
あの時、「結婚したい人がいる」と言っていたのだから。
彼は彼で、私との関係は清算したつもりなのだ。