2番目じゃなくて、2度目の恋
「自立しようと思ってね……。ひとり暮らししてるの。携帯は、イタズラ電話が多いから変えちゃって」
よくもまぁ、口から出任せがうまい具合に出てきたと自分でも感心してしまった。
スラスラと嘘が出てくる。
「今、すごく幸せなんだ。恋人も出来たし、毎日が充実してる」
「ほんとか?いやぁ、良かった。そのへん勝手に心配してたからさぁ」
「敦史に心配されなくても、うまくやってるよ」
「そうだよな。佑梨なら大丈夫だとは思ってたよ。昔から強いもんなぁ、佑梨は」
あはは、と笑う敦史の顔を見て、思わず「何言ってるのよ!」と言ってやりたくなった。
誰のせいで強くならざるを得なかったの?
誰のせいでこんな嘘をつかなきゃならないの?
誰のせいで辛い思いをしたと思ってるの?
誰のせいで、
誰のせいで、
誰のせいで……。
全部、自分のせいだ。
それに気づいたのはすぐだった。
母の病室の前に案内された時、すでに分かっていた。
「中にお母さんがいるよ。ここから先は佑梨に任せる。俺は帰らなきゃ」
白い引き戸の扉の前で、敦史が付け加えるように言葉を続ける。
「奥さんが待ってるからさ」
「…………そうだね」
コクンとうなずく私。
ちゃんと笑えてるか不安になる。
「ありがとう。気をつけて帰ってね」
「あぁ、何かあったらいつでも連絡くれよ?」
「…………………………うん」
私は敦史に手を振り、敦史も私に手を振り返してきた。
少し早足で廊下を去っていく彼の後ろ姿を見つめながら、正味10分ほどの再会は終了した。