2番目じゃなくて、2度目の恋
「他に心配要素はある?」
「…………いえ、ありません」
たかだか会って30分も経っていないのに、どうしてこんなことになってしまったのか。
この男に会う直前までお見合いなんてなんの意味も無いと思っていたし、その気持ちは今も変わらない。
適当に話をして、「じゃあさよなら、お元気で」ってそれで終わりのつもりでいた。
『あの人』を忘れたいとは思っていたけれど、恋愛を始めようとかそういうことは考えもしていなかった。
それなのに彼は恋愛感情は無くてもいいから、お互いの都合のために偽の恋人になろうと言う。
これって正常?
正常じゃないよね?
私がおかしいだけ?
違うよね?
「連絡先教えるから、あとのことはそっちで連絡取り合おう。俺、これから仕事だから」
彼が黒のクロップドパンツから携帯を取り出したので、私も携帯を出さないといけないような気がしてバッグから出す。
差し出されたプロフィール画面に映る電話番号とアドレスを自分の携帯に入力しながら、何をやってるんだろう、とポツリと思う。
そして、続けざまに『あの人』のことを思い出した。
『あの人』に言われた言葉。
優しくて甘い言葉。
私をどっぷり恋愛の底に浸からせて長い間抜け出すことが出来ないほどに『あの人』が折り重ねてきた言葉。
━━━━━俺には、佑梨しかいないんだ。
それを思い出した瞬間、なにもかもがどうでも良くなった。
「休みは日曜と祝日、それから水曜と土曜は午後から休みです」
私が突然話し出したからか、彼は少し目を見開いて「え?」と聞き返してきた。
「私の仕事のことです。休みは今言った通りなので、あとは望月さんにお任せします。会いたくなったらご連絡ください」
「………………分かった」
うなずいた彼の目が物語る。
私に好意なんてこれっぽっちも抱いていないというのは明白だった。
連絡なんてよこさないかもしれない。
でも、どっちでもいい。
どうでもいい。
考えるたびに頭の中に『あの人』が浮かんできて、私は頭痛に悩まされるんだ。
解放されたい。
もう、解放されたいんだ。私は。