2番目じゃなくて、2度目の恋
「問題があるとすれば、彼女いない歴=年齢ってところかな」
お皿に綺麗に盛り付けられたジェノバソースのパスタをフォークでくるくる巻いてから、抑揚のないトーンで言う。
すると案の定、美鈴はバケットをちぎる手を止めて目をまん丸にした。
「はぁ?ちょ、ちょっと待ってよ、30歳でしょ?童貞ってこと?」
だよね。誰だってそう思うよね。
私も初めて聞いた時は美鈴と同じことを思った。
こちらの返事を待たずして、彼女がうんざりしたように舌を出す。
「うわぁ、超面倒くさそ〜。見た目が普通っていうなら、何かあるんだよ。きっと中身がヤバいんだって。とんでもないプレイとか強要されるかもよ?」
「その心配はいらないの。そういうことはしないって言ってたから」
「うん?」
「お互いに家族とか親戚とかにチクチク嫌味を言わせないために、見せかけの恋人になったってだけ。半年間だけ付き合って、あとはさよならする約束だし」
フォークに巻きつけたパスタをパクッとひと口で頬張ると、眉間にシワを寄せた美鈴がこれみよがしに首をかしげるのが見えた。
「そ、そんなのってアリなの?漫画とかドラマの世界じゃん」
「あるんだね、実際」
「佑梨、しっかりしてよ。敦史くんと縁切ったからってヤケになってない?」
一応心配してくれているらしい美鈴の物言いに、私はニコッと微笑んで「なってないよ」と首を振った。
ヤケになっていたら、おそらく私は落ち込みすぎて自殺未遂でもしてたと思うから。
そんなことはせずに今も地味に生きていられるのは、他でもない美鈴のおかげだったりする。
泣かない私の代わりに大号泣し、怒らない私の代わりに大激怒し、最終的には敦史に直接文句を言いに行こうとまでしたのだ。
さすがにそれは止めたけど、彼女がいなければ私は立ち直れなかった。