2番目じゃなくて、2度目の恋
『ようやく仕事が休みになったから連絡したんだけど。もし空いてれば、食事でもどうでしょう』
彼の言葉を聞いて、ん?と首をかしげてしまった。
「ようやく仕事が休みになった」って、この2週間ずっと仕事だったの?
いくらなんでもそれは無いでしょ、と鼻で笑いそうになってしまった。
私が返事をするより先に、また彼が言葉を続けた。
『天気もいいし、桜でも見に行く?』
「…………桜?」
『うん、桜。まだギリギリ満開でしょ』
何を言ってるのか、よく分からなかった。
桜を見に行く意味とは?
2人で桜を見に行って、そこに何があるの?
そんな意味の無いこと、しなくてもいいんじゃないだろうか。
彼も私も時間の無駄なんじゃ……。
『一目千本桜は見に行ったことある?大河原の』
まだ私が考えているというのに、彼はその先を行くように言葉をかけてくる。
まるで私が何か言うのを見計らってるみたいにタイミングがいい。
「テレビではよく聞きますけど、実際には……」
『じゃあそこにしよう』
「私に先約があったらどうするつもりなんですか?」
我ながらちょっと意地悪なことを聞いてしまった、とすぐに反省してしまった。
だってあまりにもあっさり決められてしまって、「食事でも」って話が何故か「お花見」に変わってしまったから。
目まぐるしく変わっていくので、いったん私の中で彼の言葉を咀嚼したいのにさせてくれないことがいけないんだ。
ところが、私のちょっとした嫌味を彼は簡単にかわした。
電話越しに笑ったのが分かった。
『1人で行ってもいいんだけど、せっかく人生初の彼女がいるんだから誘ってみようかと』
「………………そうですか」
なんと返せばいいか思いつかなくて、とりあえずの返事だけを口にした。
言いながらも、この人は嘘つきだと確信した。
彼女いない歴=年齢、というのは絶対に嘘だ。
本当に経験が無いなら、こんな風に誘ったりできないはずだ。
もっとオドオドして、戸惑って、ぎこちないはずなのだ。
だけど、彼にそんな雰囲気はどこにも漂っていない。