2番目じゃなくて、2度目の恋


「思い出すことはありましたけど……、ロマンチックな感じとかじゃなく、よく分からない人だなぁ、っていう思い出し方ですよ」


隠すことでもないし、本音を言ってしまった方が楽だと思って正直に答えた。
それにこの望月弘人という男は、人の考えを見透かしたような目をしてくるのだ。
どこまで察しているのかは謎のままだけど……。


なるほどね、と彼が運転しながら口元に笑みを浮かべた。
前にもしたような、どこか冷めたような微笑みだった。


「じゃあ俺から連絡来て驚いたでしょ」

「はい……。私のことなんて忘れたんじゃないかって思っていたので」

「本当に仕事が立て込んでたんだ」

「2週間も?」

「うん。若手が3人も一気に辞めちゃって。人手不足で休みも返上して働いてたから」


彼の話を聞いて、私は少し前の自分を反省した。
2週間ぶりに突然連絡をよこしたからなんなのかと思った時に、彼は仕事だと嘘をついたと決めつけていた。
だけど、今の話を聞くと嘘ではなかったらしい。
つまり彼は、後輩の穴埋めのために仕事にでずっぱりだったということ。


こういう風に回りくどく疑って、でもそれを本人には聞かないというのが私の性格。
あまり良くない部分であることは承知していたものの、今回のことで改めて見つめ直す羽目になった。


「せっかく休みがいつなのか教えてくれたんだから、デートっていうものをしてみた方がいいのかなって思ってね。そっちも初めてなんでしょ、デート」


掴みどころが無い人。
彼が紡ぎだす一言ひとことが、私を考えさせる。
無意識に発言しているのか、あえて発言しているのかが表情からうかがい知ることが難しい。
飄々としている、という表現がピッタリ当てはまるのだ。


「桜を見て……そうするとどうなるんですか?意味はあるんですか?」

「さぁ。意味があるかどうかは人それぞれだと思うけど、きっと少し変われると思うよ」

「変われる?」

「うん。たぶん」


彼はうなずいて、それから一言だけ付け加えた。


「あなたの分厚い仮面が1枚でも剥がれるといいなぁ、ってね」


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