2番目じゃなくて、2度目の恋
私は仮面を被っている。
彼にはそのように思われていたらしい。
まぁ、人にどう思われようと勝手だけど。
いい気はしないよね、当然。
それでも怒って言い返すことができないのは、彼が言っていることは少なからず当たっているからだ。
そう、私は分厚い仮面を被っているんだ。
いい気がしないのは、まだ会って1回や2回の人に私のことを知っているような口ぶりで話されるのが嫌だったから。
やっぱりこの人、苦手かもしれない。
そのうち、信号待ちで車を停めた彼が私に視線を向けてきた。
その顔には、さっきの冷めたような微笑みではなく、もう少し温かみを帯びているような微笑みが浮かんでいる。
「さっきも言ったけど、敬語はやめてね。俺が疲れちゃう」
「で、でも……。望月さんは年上です」
「そういうの気にしないで、面倒だから」
口癖のように「面倒」を繰り返す彼。
待ち合わせした時も、頭を下げた私に同じ事を言ったっけ。
年上に敬語を話すのは常識なんだけど、確かに一応仮にも付き合っているのだからおかしいのかな。
あとにも先にも敦史とだけしか恋愛してこなかった私に社会の常識はあっても、そのへんの恋愛の常識は分からない。
「じゃあ、遠慮なく敬語はやめます……、じゃなくて、やめる」
「うん、そうだね。呼び方も弘人でいいから」
「分かりまし……、分かった。ひ、ひ、弘人……」
あまりにも不自然な言葉遣いの私を見て、彼は堪え切れずに笑い出した。
ハンドルのフチを叩いて笑う彼を、ただただ目を丸くして見つめるしかできない私。
これは完全にバカにされているとしか思えない状況。
信号が青に変わり、視線を前方に戻した彼がまだ笑顔のままで肩をすくめた。
「ウブなのか慣れてるのか、分かんない人だね」
「……慣れてないよ、こんなこと」
「そう。ごめんね、笑っちゃって」