2番目じゃなくて、2度目の恋
しつこく笑い続ける彼を見ていたらこちらまで笑いが込み上げてしまって、気がついたら自然に笑っていた。
サイドミラーにほんの少し映る自分がクスクス笑ってしまっていることが、なんだかちょっと新鮮でたまらない。
自分のことなのに、新鮮に感じるのも変なんだけど。
ここ最近はずっと作り笑いで笑顔を作っていたから、美鈴と話しているときのような飾らない自分はなかなか他人には受け入れられないと思っていた。
会うたびに「機嫌悪いの?」とか「お腹でも痛いの?」と聞いてくる親戚の人たちを見て、私って笑わないとだいぶ嫌な印象を与えてるんだなって実感していたというのも理由のひとつだ。
話の流れでついつい笑ってしまった自分をサイドミラー越しに確認して、人間らしさはまだ残ってるんだと密かにホッとしていたら、隣で私の名前を呼ぶ声が耳に入った。
「佑梨」
一瞬、ドキッとしてしまった。
敦史の顔が浮かんできそうになり、慌ててどうにかかき消す。
私の顔から笑顔が消えたからだろう、彼は横目でチラリとこちらをうかがったあと
「なにか嫌な思い出でも蘇るなら、もちろんやめるよ」
と淡々と言った。
「そんなの無いよ」
私は考えるより先にすぐに首を振った。
いつもなら何か言うときはなるべく慎重に言葉を選ぶのに、この時は冷静さに欠けていてそれを忘れていた。
「思い出なんて何も無いから、佑梨って呼んで」
「…………分かった」
追求してくることはなく、他に言葉をかけてくることもなく、彼は何故かフッと笑ってうなずくだけだった。
大好きだった敦史に「佑梨」と呼ばれるだけでどんなに嬉しかったか、どんなに愛しくなったか。
その頃の気持ちを思い出しそうになって、悲しくなりそうで。
急いで自分の気持ちを引き出しにしまい込んで、鍵をかけた。