2番目じゃなくて、2度目の恋


28年も同じ土地に住み続けていながら、桜の名所とも呼ばれる「一目千本桜」を見たことが無かったのは、私の地元から車で20分ほど行ったところに桜がたくさん咲き誇る大きな公園があるから、というのが大きな要因だ。


そこも桜が満開になる前から人々で賑わい、シートを敷いてはお花見と称した飲み会が繰り広げられていて、県内でも有数のお花見スポットになっている。
だから、お花見と言えばその公園、という図式が自然に出来てしまっていたのだ。


家族で出掛けたお花見も然り、小学校の遠足も然り。


そういえば敦史に誘われて出掛けたお花見も、その公園だった。
彼とは2回ほどお花見をした。


1回目は高校2年の春、昼間に行った。
どことなく距離を保ったまま歩いて、人混みに紛れながら彼の姿を見失わないように歩いた。
2回目は24歳の頃、夜桜を見ようと夜に出掛けた。
あの時は、私たちは手を繋いで歩いたんだ……。


桜が綺麗、というよりも。
私は敦史と「恋人」になれているような気分になるが嬉しくて、それだけで春という季節が続けばいいのにと願ったりしていた。


そんな気持ちはもう2度と思うことは無いのだと思うと、虚しさや切なさが沸き上がってくる。





一目千本桜を目的にした人たちは、私の地元の公園へ集まっていた花見客の比じゃなかった。


目的地が近くなるにつれて道路に増えていく車の数、歩道を歩く人の数、駐車場へ続く長い長い列。
正直、ここまでだとは思ってなかった。


こんなに人が集まるなんて、びっくりしすぎて言葉を失うほどだ。


車を運転してくれている彼……弘人は、というと。
おそらく気が長い方なんだとは思っていたけれど、渋滞に対しても人の多さに関しても、文句のひとつも言わずにトロトロと運転していた。


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