2番目じゃなくて、2度目の恋
窓の外に広がる桜並木。
それを見ただけでも圧巻の風景で、私はすっかり夢中になり窓に張りついて、ひたすら満開の桜を見上げるばかりだった。
名前が「一目千本桜」っていうくらいなのだから、実際に千本あるのかもしれない。
その並木道は凄いとしか言いようがないほどに美しかった。
淡いピンクから濃いピンクまでが見事なまでに折り重なり、「綺麗」と感想を述べることもせずに食い入るように見つめた。
きっと、数回お花見に行ったことのある地元のあの公園だって、本当はちゃんと見ていればこのように感動していたのかもしれない。
でもあの頃の私には、敦史しか見えていなかったのだ。
弘人と私は、ポンポン会話が弾むわけでもない。
彼のことはよく知らないし、彼もまた私のことをよく知らない。
知らない同士だからこそ、余計な詮索をされなくて済むから少しだけ安心した。
やっとのことで駐車場に車を停めた頃には、お昼の時間帯をゆうに越えてしまっていたけれど、それでも花見客は途絶えることなく続々とやって来ていた。
車を降りて少し歩くと、さっき道路から流れるように見ていた桜並木が目の前に広がる。
近くで見ると満開の桜には迫力さえも感じられて、風が吹くたびに連動してざわめく枝が芸術的だった。
あまりに強い風が吹くので、バサバサ揺れる髪の毛を押さえながら桜を見上げていると、隣を歩く弘人がボソッとつぶやいた。
「玉こんにゃく食べたいな」
「…………え?」
人が桜に感動しているというのに、彼はそれをあっさり裏切るようなことをしれっと言ったので、呆れた感情を隠し切れなかった。
彼は私のそんな気持ちにしっかり気づいたらしく、苦笑いを浮かべる。
「そんな顔しないでよ。お腹空かない?上で売ってるからあとで食べようよ」
はぁ、と微妙な返事をしているうちにあっという間に人混みにのまれた。
昔、敦史と初めて桜を見に行ったときのように。
私は弘人の背中を追いかけるだけで精一杯だった。
さっきまで隣にいたはずなのに、距離が離れていくのだ。
そうやってあの時も、私は桜を見ずに敦史を見失わないようにだけしてしまって、やっと人混みを抜けたと思ったらその先で彼が待っていたんだっけ。
「すごい人だね」と敦史は笑っていた。