2番目じゃなくて、2度目の恋
4 嘘つき同士のキスは、甘くない


私が敦史の前から何も言わずに姿を消したあと、彼からは3回ほど何事もなかったように連絡が来た。
連絡はいつも電話。
メールはほとんど来なかった。


彼の都合のいいときに、ふと鳴る携帯の着信音。
それを3回無視するのは相当の精神力を必要とした。


マンションの隣同士に住んでいても隣から物音なんてちっとも聞こえないけれど、彼は今頃ご飯を食べているのかな、いや、もしかしたらリビングのソファーに寝そべりながらテレビを見ているかもしれない。
もしくは、仕事で疲れてもう眠ってしまったとか。


そういう風に気を抜くと彼のことばかり考えてしまうから、これじゃいけないなと思った。
それで、一人暮らしを決意した。
もうそこからはあっという間だった。
次の休みには不動産屋へ行きいくつか物件をまわり、その次の週の土日で引越しをした。
両親にも「どうして急に一人暮らしを?」と首をかしげられたけれど、「ちょっと思い立ったの」と適当な嘘をついた。


今思えば、私の嘘はここから始まったような気がする。


4件目で決めた最寄り駅まで歩いて10分というまぁまぁな立地の一人暮らしのアパート。
車は持っていないため徒歩圏内で動き回れる場所を探していたので、それなりに綺麗な部屋を見つけることができて良かった。


引越しをした初日の夜、真っ暗なアパートの部屋で実家から運び入れた寝心地の慣れたベッドに身をうずめて思ったのだ。


敦史との思い出は封印しよう、と。
私の恋愛は彼しかいない。
彼の全てを私の中から消し去ったら、何も残らないのは分かっている。
それでも抹消することを決めた。


恋愛をしたことのない、まっさらな状態に戻る。
彼に恋をする前の小学校4年生の、あの頃に。


だから私は恋愛をしたことが無い。
誰かを好きになったことが無い。
…………と思い込むことにした。


恋愛をしてまた好きな人の『2番目』になるのはもうたくさん。


恋愛は、面倒だ━━━━━。








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