2番目じゃなくて、2度目の恋
この人と仮にうまくいってしまったら。
弘人に言わなくちゃ。『偽恋人』の解消を。
彼なら笑って「おめでとう」とか言ってくるんだろうな。
たいして気にも留めない様子で。
あの人はきっと大丈夫。
見た目も悪くないし、身長もあるし、真面目に仕事してるし。
その気になれば彼女の1人くらい作れるはずだから……。
ボーッと考え事をしていたら、いつの間にか人の気配の少ない路地に来ていた。
一方的に繋がれていた手を、浅野さんが離してくれた。
「あのー……。今からどこに行くんですか?」
灯りの少ない路地の先を眺めてそう尋ねると、急に浅野さんの腕が私の背中に回ってきてギュッと抱きしめられた。
何がなんだか分からなくて、彼の肩越しにパチクリと目を瞬かせることしか出来ず。
え?え?え?
戸惑っているうちに、私の唇に何かが押しつけられているのを感じて身がすくんだ。
これはキスだ。
マーブル模様のぐちゃぐちゃになった頭に、囁くような浅野さんの声。
「最初から君が一番素敵だと思ってた。黙ってついてきてくれたってことはそういうことでしょ?」
「そ、それは……」
違います、と言おうとした口を、また彼の唇で塞がれる。
誰が見てるかも分からないのに、この男は公務員のくせに常識が足りていないらしい。
それと同時に背筋が凍りつくほどの気持ち悪さと嫌悪感を感じてしまった。
彼に触れられている部分が、嫌っていうほど拒否反応を示していた。