2番目じゃなくて、2度目の恋
抵抗しようとしても押さえつけるように抱きすくめてきて、密着している体も怖いくらいに震え出した。
全身の力を振り絞って両手を自分の体の前に滑り込ませて、くっついてこようとする浅野さんの体を前方に押し出した。
目の前にいた彼の体がゆらっと揺れて、視界から消える。
ドン、という鈍い音がした。
アスファルトの上に浅野さんが尻餅をついていた。
ヤバい、と思った時には遅かった。
「何するんだよ!」
と怒りの声を上げられて、私は無意識に回れ右をして全力でその場から駆け出した。
走りながら、バッグからハンカチを取り出してひたすら唇をこすった。
あの人の感触を消すように。
自分のバカさを呪うように。
リップがつこうがグロスがつこうが、どうでもいい。
ハンカチなんて捨てたっていい。
どこかのお店で2人で飲むんだとばかり思っていた私って、なんて浅はかなんだろう。
よくある恋愛ドラマにありがちな、典型的なバカ女の象徴じゃない。
自分がこんなにバカだったなんて信じられない。
全速力で走っていたのをやめてゆっくり歩いて、徐々にスピードを緩めて立ち止まった。
違う。
私は最初からバカだった。
敦史の……好きな人の『1番』になれなくて、ずっと『2番目』で満足していたような女。
私は、バカなんだ…………。