2番目じゃなくて、2度目の恋
やがて、車は私のアパートのすぐそばで停まった。
正味15分のドライブだった。
突然呼び出した挙げ句、自宅の方向とは違う私のアパートまで送ってくれた彼には一応感謝を伝えなければ気がおさまらない。
シートベルトを外して、ペットボトルを彼に返しながらお礼の気持ちを伝える。
「送ってくれてありがとう。助かった。このお礼は次回返すから……」
「いや、今がいい」
「え、今?」
私が首をかしげた時、ちょうど彼もシートベルトを外したのが視界の隅に映った。
ゆっくりした動作で弘人の右手が私の頬を撫でる。
そのままその手は後頭部に回って、頭ごと引き寄せられた。
運転席と助手席の間で、暗くて狭い空間で。
私と弘人の顔は、くっつくかくっつかないか寸のところで踏みとどまるように近づいた。
落ち着いた声で、弘人が言う。
「抵抗するなら今だよ」
なによ、それ。
私は心の中で彼に文句を連ねた。
こんなので私の気持ちが動くと思ったら大間違い。
もしもキスされたなら、平手打ちのひとつでもお見舞いしてやるんだから。
だってここでキスしたら、それは約束と違うじゃない。
私たちは手も繋がないし、キスもしないんでしょ?
あなたが言ったことなのに。
「だって弘人もファーフトキスでしょ?」
「………………そうだよ」
嘘つき。
この男の嘘は、あまりにも見え透いていて胡散臭い。
私を引き寄せた彼の手が、躊躇ひとつ無かったことを私は身をもって体感している。
初めての人にこんなの出来っこない。