2番目じゃなくて、2度目の恋
6 交錯する想い
クリニックの勤務は朝の8時から夕方18時まで。
でも患者さんが立て込んでたりするとそれよりも帰宅はもっと遅くなる。
月末と月初めはレセプト業務に追われるため、帰りはいつも20時を過ぎることはザラにある。
月初のレセプト期間、私と吉川さんは2人で残ってレセプトチェックに励んでいた。
患者さんが帰ってしまえば、受付内でお菓子を食べようがジュースを飲もうが自由。
時には吉川さんなんかは携帯でラインのやりとりなんかもしちゃっている。
先生とナースが2人、彼らも診察室に残って残業をしている。
静かになったクリニック内で仕事をしながらも、机の端に置いている携帯を時々気にした。
私は1週間ほど前、弘人とキスをした。
どうしてそんなことになったのか、あの状況を詳しく話してみろと言われると話せない。
少なくとも弘人は、私を試すつもりだったんだと思う。
その日参加していた合コンで出会った浅野という男性にキスをされ、嫌がっていた私。
それなら自分とはどうなのかと考えたのだろう。
簡単に言うと、嫌じゃなかった。
それは最初に彼が私の頬に触れた瞬間から感じていたことだった。
あの手の温もりが、不思議と安心できるような優しさを持っていて。
弘人がそんな風に触ってくるなんて意外だったし、浅野さんの時に感じた嫌悪感を彼には一切感じなかった。
顔を近づけるまで気づかなかった。
彼が私と同じ目をしているということに。
いつか弘人が私に言った言葉。
「佑梨は時々、寂しそうな顔をするね」と。
彼もしていたのだ。寂しそうな顔を。