2番目じゃなくて、2度目の恋
どうしたって居なくなってくれない『あの人』。
目の前の彼が『あの人』の存在を忘れさせてくれるとも思えないし、なにより彼は私のことを好きでも何でもない。
周りに異性関係のことをとやかく言われるのが嫌で、とりあえずの恋人を作っておくことで防ぎたいだけ。
そんな不条理な理由で私と付き合おうなんて無理に決まっている。
未来のない恋愛は、もうコリゴリだ。
一刻も早く彼に、このお見合いは無意味であり私たちはこれきり2度と会うことは無い、ということを伝えて立ち去らねば。
そう思っていた矢先、彼が「さっきの話だけど」と切り出してきた。
「お互い恋愛したことも無いんだし、この機会に恋人になって社会勉強しない?あなただって家族とか友達から色々言われたりするでしょ?何歳だっけ?」
「28歳です。確かによく言われます、彼氏は出来たのか?結婚はまだなのか?って」
「ね、でしょ。それならとりあえず俺と付き合っておけばしばらくそういうのも言われなくなるよ」
なにそれ、バカじゃないの。
という感想がつい口から漏れそうになり、慌ててコーヒーカップで口を塞ぐ。
都合よく話を進めようとしたって、そうはいかない。
どんだけ軽い女だと思われてるのだろう。
くだらない。胡散臭い。
何を企んでいるの?
そうやって何人の女を口説いてきたの?
この人は恋愛に興味が無いと言いながら女性に近づく、詐欺師みたいな奴なんじゃないのか。
タチが悪すぎて引いてしまった。
「社会勉強って言いますけど、私はあなたと手も繋ぎたくないしキスもしたくないです」
ハッキリと拒否の意思を示すべく告げた声は、十分すぎるほど冷たい響きを持っていて。
それはきっと彼にもしっかり伝わったと思う。
すると、フフッと笑う声が聞こえて驚いた。
彼がさっきよりも楽しげに笑っていたのだ。
冷めたような微笑みではなく、普通に歯を見せて笑っている。