今すぐぎゅっと、だきしめて。
和田君は、あたしの前に立って何かをじっと見据えている。
……この光景どこかで見た?
ふと、頭の中に浮かぶシーン。
それは、あの夏祭りの夜、自販機の前でヒロが何かからあたしを守ろうとしてくれた時だった。
そうだ。
あの時と同じなんだ……
大樹と並ぶ程背の高い彼。
そのせいで、あたしは彼の見据える先に何があるのか、まったく見えなくなっていた。
ジリ…と和田君の足が前に出た。
そして、視線だけをこちらに向けて面倒臭そうに眉間にシワを寄せた。
…え?
首を捻ったあたしを見て、和田君はまた視線を前に戻しながら言った。
「安達って……引っ張る体質なの?」
「……は?」
ヒッパル?
なにを?
質問の意味がわからなくて、さらに首を捻ると突然和田君は、あたしの腕をグイっと掴んだ。
「わッ……」
掴まれた腕が熱い。
ジンジンと痛みが走る程、それは酷くなった。
和田君は、前を見たままあたしを掴む手に一層力を入れる。
それは、まるで人の力だけじゃないくらい。
「ちょ…痛い……」
「……」
あまりの痛みに眩暈さえ起こしそうだった。
その手から逃れようと身をよじってみてもびくともしない。
男の人の力に叶うはずがないんだ……。