今すぐぎゅっと、だきしめて。


体の中に染み込んでいく
その感情に
あたしは押し潰されそうだった。


苦しくて
苦しくて。


ただ、哀しかったんだ……。







「…………」



重たい瞼を何とか持ち上げる。


でも
目の前の光景を頭が理解するのに
少しだけ時間がかかった。



「……大丈夫か?」



あたしの体を抱えるように支えて
安堵の溜息を零しながら
困ったように言ったのは。




「……わ…だくん?」

「…………」



あたしの声に、少しだけ微笑むと和田君は「何があった?」と言った。


軋む体を和田君に支えてもらいながら、ゆっくりと起こす。



頭、痛い。



ぼんやりとした視界が、次第に鮮明さを増す。



……え?


自分のいる場所にあたしは見覚えがなかったんだ。



「うそ……なんで……」



ゆらりと立ち上がって、あたしは辺りを見渡した。


潮の香りと穏やかな波の音があたしの体を包む。
真っ暗な森の中に居たのに
いつの間にか海岸沿いまで来ていて

目の前に広がるのは

夜空いっぱいの星たちと
その星を見上げる深いブルーの海。


そして
どこまでも続いていそうな

あの 洞窟だった。


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