今すぐぎゅっと、だきしめて。

「そんじゃ、とりあえずユイを旅館まで送り届けるか」

「へ?」


ヒロはそう言うと、あたしに背を向けて歩き出した。

ちょ…ちょっと、待ってよ!

せっかくヒロに会えたのにもう帰っちゃうの?


って……
あたしさっきから矛盾しまくり。

だって、早く帰りたかったのに今はここに居てもいいかな
なんて思ってるんだもん。


「あ」


慌てて追いかけようとしたあたしは、そう言って立ち止まったヒロの背中に顔から思い切り飛び込んだ。


「ぶッ」


その拍子で、グラリと視界が揺れる。

あっと言う間に体のバランスを失ってあたしは後ろに倒れこんだ。



でも。
次の瞬間、強い力で腕を掴まれたあたしは、そのままグイっと引き寄せられた。


ふわりと香る
甘い匂い


これはなんの香り?



知ってる


知ってるんだけど


なんだっけ?




ジンジンと鼻の頭が痛む。
あたしは鼻をさすりながら半分涙目でヒロを見上げた。


「あたたた……ヒロ……手加減してよぉ」

「助けてあげたんじゃん。 ところでさ、懐中電灯とお札はどうした……」


呆れ顔でそう言ったヒロはそこまで言うと、言葉を飲み込んでしまった。

そのままの表情で、瞬きもせずにあたしの顔を見つめるヒロに
落ち着いていた心臓が再び暴れだした。


……?



「ヒロ?」

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