今すぐぎゅっと、だきしめて。
「なんだよ、ダメなの?」
「だ、ダメってゆーか!なんでそう言う事確認するかなっ」
だってだって……
「抱きしめていい?」って聞かれて
「うん、いいよ」って素直に答えられるほど、あたしは大人じゃない!
なんで聞くのよぉ……
もう全身から湯気が出ちゃいそうなくらい、きっとあたし真っ赤だ。
見えるすべてがぼやけてきちゃった。
それもこれも、全部ヒロがいけないんだからねっ!
「確認しなければ、いいって事?」
勢い良く立ち上がったあたしを見上げながら、ヒロはつまらなそうに言った。
「いくない! か……か、からかわないでよ」
冗談なら、本当に体に悪いよ。
だって、心臓が壊れちゃいそうな程ドキドキしてる。
人間、人生のうちに鼓動を刻む回数が決まってるって言うじゃない?
あたし、ヒロに出会ってから確実に寿命縮まってると思う。
懐中電灯なんかどっかに落っことして来ちゃったし
お札もどこかに消えちゃった。
いいのか、悪いのかわからないけど
あたしたちはもう帰るしかないんだ。
ヒロが変な事、言うから随分時間経っちゃったじゃない!
絶対奈々子も大樹も心配してる!
あたしはクネクネ曲がる獣道の先に小さく見える
旅館の明かりを見つけ、さらに足を速めた。
「……わっ!」
明かりが見えてホッとしたのもつかの間
腕を掴まれたあたしの世界はグラリと反転し
気が付いた時には
知らない香りと知らない温度に包まれていた。