今すぐぎゅっと、だきしめて。


そしてゆっくりとあたしからその体を離すと、歯痒そうにくしゃっと前髪をかきあげた。



きょとんとしてそれを見つめるあたし。

だって、明らかにヒロの様子、変だ。



そんなあたしにチラリと視線を向けるとヒロは「はあー」と大きく溜息をついた。




「……俺が成仏できなかったのは、間違いなくユイのせいだ」


「は?」



腕組みをして、眉間にシワを寄せたヒロはまっすぐにあたしを見つめた。



――……ドクン


なに?

少しだけ首を傾けて
覗き込むように、あたしの瞳を見つめるヒロから目が逸らせない。


まるで、金縛りにあったみたいに
あたしの体の自由は奪われてしまった。



“ユイのせい”


どうして、あたしのせいなのよっ!


…って、言いたいのにその言葉はすぐに喉の奥に引っ込んでしまった。



ゴクリ



思わず生唾を飲み込んで、その瞳の呪縛に耐えながら次に紡がれる言葉を待った。



木々の間から、小さな月明かりが差し込んでヒロの髪や顔をチラチラ照らす。


ストロボの群れ。


ささやかなスポットライトが彼の存在を示してくれていた。



海からの風が髪を揺らし、あたしの頬を掠める。


……あ、これ……


まただ、この香り…………



そしてピクリと薄い唇が動いて
暗闇に白い歯が浮かび上がった。




「……今、ユイを抱きしめてわかった」




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