今すぐぎゅっと、だきしめて。


キスされちゃうかと思ったのに、いっこうにそれは起こらなくて。
あたしは固く閉じていた目をそっと開けた。


うッ!


真っ暗だった視界に真っ先に飛び込んで来たのは、やっぱりヒロで。
あたしと視線が絡まると、

ニヤリ

口の端をクイッと持ち上げて悪戯な笑みを浮かべた。




……はあ?

意味わかんないんですけどぉー!



「な…なにッ なにすんのよッ! かか、からかわないでよ……」



恥ずかしくて
あたしはしどろもどろになりながら、慌てて顔を背けた。



「信じらんない! 冗談にもほどがあるよ!」



あたふたしてるあたしの反応に、なんだか満足そうな表情のヒロ。



あー! もうほんとにムカつく!!


ヒロの胸をドンと押しやって、あたしはそのまま向きを変えて、森の出口へと向かった。



ドクドクと心臓は情けないくらいうるさくて
あたしはそれを隠すように、さらに速度を上げてヒロから離れた。



そんなあたしなんかお構いなしで、背中に楽しそうな声が飛んで来た。



「ユイー?」

(絶対振り向いてなんかやんないんだから!)

「怒んないでよ?」

(ヒロなんか……ヒロなんか嫌いだーッ)




知らないッ!

ヒロの呼びかけなんか無視して、あたしは歩き続けてた。



さっき、ヒロが“好き”って言ってくれて。
あたしすごく嬉しかった。

どうしようって。
なんて答えようって……



嬉しかったんだよ?




それを……それをからかうなんて、酷すぎる!


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