今すぐぎゅっと、だきしめて。


「……和田く…ん」



頭で思った言葉がポロリと零れた。

和田君は腕組みをして壁にもたれながらあたしを眺めてた。



「……」



ただ、こっちを見つめたまま何も言わない彼の瞳が、あたしの何もかもを見透かしてる気がして胸がドキリと波打った。

ヒロ……じゃないね?

もう、和田君のその瞳の中にヒロを見つける事は出来なかった。





「おい、和田。お前がいながらどうしてこんな事になったんだよ」



心配する素振りも見せない和田君に対して、苛立ちをぶつけるように静かに言い放ったのは、大樹だった。


「言ったよな? ユイは引き寄せるって」

「……え」




なに…言ってるの?
大樹……


引き寄せるって……なに?



和田君はそれでも黙ったままで、大樹は眉間にシワを寄せて和田君に詰め寄った。



「何の為に、お前に頼んだか忘れたのかよ」

「大樹……やめなよ!」



大樹が和田君の胸倉を掴んだ瞬間、奈々子が二人を止めにはいった。


「……」


あたしはただそれを客観的に眺めていた。


あたしの事を言ってるのに
全然そんな気はしなくて……


他人事みたいだ。








「安達」

< 129 / 334 >

この作品をシェア

pagetop