今すぐぎゅっと、だきしめて。
不意に名前を呼ばれ、あたしは顔を上げた。

そこには、和田君がいて大樹に掴まれたままだった服を直しながらあたしを真っ直ぐに見下ろしていた。



「俺、言ったよね? 体質の事」



和田君のポケットからはあの蛙のマスコットが揺れている。
あたしはそれを見つめたまま、コクリと頷いた。



「憑依……って」

「うん。 迷惑な話なんだけど俺、結構そういうの多いんだよ。 だから予防っていうか、ほら……この蛙。 こいつが俺の身代わりで……んー、まあ簡単に言えばお守りだったんだ。 でも、安達と駐車場でぶつかった事でどうも、壊れたらしい」



和田君は、説明しにくそうに何度も眉間にシワを寄せながら言うと、あたしに蛙を差し出した。



「……あの時の……和田君だったんだ」



受け取った蛙は、手のひらにすっぽり収まってしまうほど小さな物で
それ自体は無事だったんだけど、蛙にくくり付けてある赤い紐が、切れてしまっていた。



バスを待ってる間に、誰かにぶつかった。

足元に落ちてきた大きな鞄に付いてたのは、確かにこの蛙だ。



「その……ごめんなさい」



あたしのせい……なんだ。


こんな事になったのも、きっとあたしがあの時ボーっとしてて
近くにいた和田君に気づかなかったから。


だから……



しゅんとうな垂れたあたしを見て、大樹は「なに謝ってんだよ」と言いながら呆れたように大きな溜息をついた。




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